【コラム-Vol3】フィギュアスケート 芦塚明日佳

※本誌 vol.3 P.2 万里一空より

夢はプロのショースケーター​

見ている人に最後まで楽しんでもらえるような演技をしたい。

取材に訪れたのは秋の日差しが暖かい 10 月末。
試合を翌日に控え、この日も早朝から埼玉県内のスケート場で練習をした後、 宇都宮のスケート場まで移動し、本番を想定した練習を繰り返していた。 移動の車の中で食事をとったり、学校の宿題をしたりと時間はムダにしない。 それは決して “ストイック” なわけではなく、彼女なりの “自然体” な姿だった。
写真/荒井要一 文/谷口陽子

 

スケートは個人競技だけど、滑っているのは一人じゃない

「シューっと滑っていくのがカッコよく見えた」
小学1年生のとき、母の友人の娘さんがリンクを颯爽と滑っていくのを見た明日佳さんは、すぐにスケート教室に入会を決めた。
もともと運動は得意な方ではないし、走るのも泳ぐのも苦手。でも、滑るのは楽しかったし、怖くなかった。

すぐに試合にも出るようになり、アイスショーにもキッズスケーターとして参加し、当時はまだ高校生だった羽生結弦選手と一緒に滑ったこともあった。
おかげで、中学3年になった今でもすっかりスケート漬けの毎日だが、練習場に通う車の中でご飯を食べたり、勉強したり…そんなことも楽しいと笑顔を見せる。
取材をしたこの日も、演技の動画をチェックし、ときおり無邪気にほっぺを膨らませたりしながら、にこやかにまた滑り出す。

「メンタル弱いし、怖がりだからなんでもできるタイプじゃない。だからジャンプは今でも怖い。やめたいって思うこともしょっちゅうで、本気でやめる!って思うんだけど、もったいないっていう気持ちもある。こんな自分でも9年間も続けてこられたのは、ママのおかげなんです」
移動やスケジュールの管理など、全面的にサポートをしてくれる母の存在がなければ、選手としてはもちろん、競技を続けることすらできなかった。オフの日にはスケートのことをまったく考えないでいられるのも、母がリフレッシュなどのメンタルケアまで気を配ってくれるからだ。そのことは明日佳さん自身が一番よく分かっている。だからこそ、試合や練習の機会が制限された状況になっても、立ち止まることはなかった。

 

自然体でいられることの “強さ”

昨年は、11月に行なわれた来年度の国体・栃木県代表を決める大会で3位に入賞し、12月の全国予選会に出場。本戦には進めなかったが、課題としていたダブルアクセルはしっかり決めることができた。年が明け、今年の1月30日から予定されていた全国中学校スケート大会は、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言を受け、中止が決定された。

明日佳さんは、中学1年からずっと栃木県代表として出場しおてり、今回は中学最後の全中大会に向けて練習を続けていた。中止の発表を受けて、かなりがっくりとしたそうだが、すぐに気持ちを切り替えた。
まずは、受験。そして7級の取得だ。
フィギュアスケートの規定には、試合に出場するためにバッジテストによる「級」を取得する必要がある。レベルによって演技の時間も異なり、より高度な技が求められるようになってくる。ちなみに国内最高峰の大会である全日本選手権に出場するためには、7級以上が条件となっている。県内でも7級の受験資格を持つ選手は決して多くない。ましてや中学生ともなればなおさらだ。

「今は、新しい技よりも自分の技を磨いていきたい。今でも前から踏み切るジャンプは怖いし、得意な方ではないけど、もっともっと精度を上げて、見ている人が最後まで楽しんでくれるような演技をしたい」と、大会がなくても、目標を見失うことはない。
中止となった全日本中学生大会も、現時点では代替試合などの予定は発表されていない。

次の大会の予定が見えない状況のなかでも、屈託なく笑うそのナチュラルさが最大の魅力であり、“強さ”なのかもしれない。
夢は、見る人を楽しませるプロのショースケーター。多くの観客の前で、会心の演技を披露したあとに無邪気な笑顔を振りまく…そんな姿が見てみたい。

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